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電王戦振り返り(1)人智を越えた手 第2期第2局佐藤天彦名人-Ponanza

電王戦振り返りの第1弾は、2017年5月20日に行われた佐藤天彦名人-Ponanza戦です。

 

棋譜と写真

電王戦中継サイト

 

観戦記

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この対局は現地で観戦していました。

かなり早い時間に現地入りし、(前日の対局で負けて、当日6時台に起きて姫路まで行ったのは辛かった。。)観戦記の先崎九段、軍師だった永瀬六段、コンピュータ将棋に詳しい千田六段らと充実した検討を行うことが出来ました。
また自宅のPC(※)をリモートで動かして検討させていたので、そういった点でもより濃密な検討だったといえます。
 
将棋の流れとしては、(+は佐藤天名人からみて、-はPonanzaからみて)
 
1.序盤は佐藤天名人が攻勢をとって+200程度。
2.先手が穴熊にした構想をPonanzaはありがたいと判断。0に。
3.先手の開戦の仕方をPonanzaは推奨せず。角打ちから猛攻を仕掛けて-300に。
4.先手に受け間違いがあり、-800に。
以下、Ponanzaが危なげなく押し切る
 
というものでした。
1と2は観戦記に触れられているので、3と4について考察します
 
3は下図。
 
 

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ここで佐藤天名人が▲5五歩と仕掛けましたが、Ponanzaはじめ、各ソフトは▲1六歩△同歩▲5五歩、という順での仕掛けを推奨していました。
これは非常にやりづらい順です。端の突き捨ての効果が見えにくい(あるかどうかすら私にはわからない)うえに、すぐ△1七歩成と飛車取りに成られてしまうからです。
人間は視覚や言語で局面をみる傾向があるため、歩1枚の損でも、明確な見返りが無い手は指しづらいです。
 
本当にこの▲1六歩が正しいのか、私にはわかりませんが、手元のelmoに4億局面考えさせるとやはり▲1六歩を推奨します(評価値は-200程度)。
仮にこの手が正しいとして、私には生涯指せない手だと思います。
 
 
そして4はそれが顕著に表れました。
 
 

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ここで▲9四銀と指した瞬間、ソフトの評価値が一気に後手に触れました。
見た目には自然な逃げ方ですが、最善は▲7四銀!と角の利きに突っ込む手だとソフトは指摘します。
 
 

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先程書いたように、
人間は視覚や言語で局面をみる傾向があるため、歩1枚の損でも、明確な見返りが無い手は指しづらいです
パッと見では銀を損する効果が見えづらいのですが、▲7四銀△同角に▲7三角成と進めると、△6三金には▲7四馬~▲5三歩成があり、銀損を補う戦果があげられるのです。ここまでは私にも理解可能ですし、それだけの理由であれば指すことができそうです。
 
難しいのは、△7四同角以外の手の時に7四と9四で銀の位置がどう影響するのかわかりにくいところです。
それならばタダのところに進むリスクの高い手より、9四に逃げるリスクの低い手を選ぶのは自然です。
しかし実際、数多い分岐の中のある1局面で大きな影響があり、それが形勢に直結しました。
 
終盤に近いので分析がしやすく、あとになって振り返れば9四銀で大きく評価値が下がることは納得できます。しかし△9三桂の時点では私には理解不能ですし、今後も理解できるようになるとは思えません。結果論で片付けざるを得ないところでしょう。
  
本当にそうなのかは、プロの世界で私より実力の高い棋士の意見も聞いてみたいです。
とはいえプロ棋界の頂点に立つ名人が指せなかったわけですから、人間の理解を超えていると言って、大きく間違えてはいないでしょう。
 
いまは人間もソフトの手を懸命に吸収しようとしていて、少なくとも自分はそれで強くなった実感があります。
しかしいくら強くなっても人間には指せないであろう手も存在し、そういう手は文字通り人智を越えた手といえます。今回の2つの場面は、まさにそういう手であった、と言っていいでしょう。
そしてそういう手が次々に出現するところに、将棋というゲームの奥深さを知り得ます。
 
 
次回は第2期電王戦第1局を取り上げます。
そこでも似たシーンが登場します。
 
 
 
最後にPonanzaの開発者である山本一成さんの新著をご紹介します。
献本いただき拝読しました。人工知能について将棋という実例を元に非常にわかりやすく説明された良著です!
 
 
巻末には山本さんと囲碁棋士の大橋六段という情熱大陸で共演(?)したお二人の対談も掲載されており、こちらも必見です。
 
面白かった箇所を1つだけご紹介。
大橋:見ているとき、「これはついに、囲碁の神が降臨したのか!」と思いました(笑)
山本:最初から最後まで読みきって、1手も間違えない囲碁の神様?そんなわけないですよ(笑)

 

将棋でも最初はそうでしたが、いきなり人間の理解を超えるコンピュータが現れると「神」だと思ってしまうのです。囲碁は変革が急激だったので、プロでもそう感じたようです。将棋は電王戦で6年という年月を経てだんだんとコンピュータの強さを体感したので、そういう誤解はあまりなかったと思います。

実際に囲碁や将棋ほど深いゲームで全くミスをしないというのは、いくら強いコンピュータソフトといえども、少なくともいまの時点ではありえません

 

 

それではまた

 

ソフトでの検討は主にelmoと技巧2を併用して精度を上げている。
使用PCは私の自宅にあるもので、電王戦で使うものと遜色ない性能。